- 環境科学科
ハチクが120年ぶりに開花した、その時タケ類てんぐ巣病菌はどうする?
2024年9月12日
2022〜2023年に120年ぶりにハチクの一斉開花が兵庫県でみられ、神戸のアマチュア研究者である望月譲治さんがハチクの花芽にタケ類てんぐ巣病菌(Aciculosporium take)の子座(胞子を作るための器官)を発見しました。
本菌は、植物組織内に生育して通常は茎頂(茎の先端部で生長点がある部位)に子座(胞子を作るための器官)を作ります。本菌の近縁種は花の子房に子座を作るので、ハチクの花に対して本菌がどのように反応するのか調べれば、この菌の進化過程に迫れると考えました。
環境科学科の田中 栄爾教授は、花芽の組織切片をセロハンテープに接着して三重蛍光染色をするという工夫をして、繊細な花芽の構造を壊さずに詳細に観察しました。その結果、通常は2〜4個の花をつける花芽のうち子房がある花(図の第1、第2小花)は素通りして、茎頂に相当する、子房をもたない不完全な花にしか子座が形成されないことがわかりました。つまり本菌は、滅多に開花しないタケに寄生する進化の過程で、子房に寄生する能力を失って、茎頂に子座を作る能力を得たのではないかと考えられました。
本成果は、9月20日のMycoscience誌65巻5号に掲載予定で、2024年8月9日にオンライン先行公開されました。
図 タケ類てんぐ巣病菌の子座を含むハチクの花芽とその組織切片の蛍光三重染色画像 左図が一つの小穂である。ハチクの小穂は包穎に包まれた2〜4個の小花でできており、根本の方から第1小花、第2小花と呼ぶ。この小穂の第1、第2小花には雄しべが見えている。第3小花は見えず、タケ類てんぐ巣病菌の白い子座が見えている。この子座は水を含むとタケ類てんぐ巣病菌の分生子(無性世代の胞子)を放出する。 右図が左の小穂を縦断して10マイクロメートルの厚さで作製した組織切片を三重蛍光染色した画像である。落射蛍光顕微鏡で取得した多数の画像を1枚に合成している。黄緑色の部分が菌体で、先端の不完全小花の組織内に菌体が充満して、そこから子座が形成され、子座が第3小花も包んでいることがわかる。第1小花、第2小花の子房にあたる部分には菌体がみられない(この切片には第1小花の子房は含まれていない)。赤色が植物組織のセルロースを多く含む部分。青白色はDNAを多く含む部分。黄色は花粉の自家蛍光。
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