- 研究トピックス
母乳栄養児においてビフィズス菌優勢な腸内フローラが形成される仕組みの一端を解明―ヒトとビフィズス菌の共生・共進化を担う遺伝子の構造と機能―
2017年4月7日
片山高嶺 寄附講座特任教授(京都大学教授 兼任)、阪中幹祥寄附講座助教、片山礼子 准教授、栗原新 寄附講座准教授の研究グループは、伏信進矢 東京大学教授らと共同で、母乳栄養児の腸管内においてビフィズス菌優勢な腸内フローラが形成される仕組みの一端を解明し、それに関わる酵素の立体構造と機能を明らかにしました。
本成果は、2017年4月7日付けで米国の科学誌「Cell Chemical Biology」電子版に掲載されました。
【研究成果の内容と背景】
授乳を開始すると直ぐに乳児の腸管にはビフィズス菌*1優勢な腸内フローラが形成されますが、離乳と同時にこのフローラは消滅します。このことから、人乳にはビフィズス菌を増やす因子(ビフィズス因子)が含まれていると予測されていましたが、その機構は解明されていませんでした。
本研究グループは、以前より、人乳に含まれるオリゴ糖(母乳オリゴ糖)*2)を利用するための酵素(母乳オリゴ糖分解酵素) *3)をビフィズス菌のみが有していることに着目して研究を進めており、今回の研究では特にラクト-N-ビオシダーゼという酵素に着目して研究を行いました。京都府内の助産院の協力を得て、完全母乳で育てた乳児の糞便と混合乳で育てた乳児の糞便を解析したところ、ビフィズス菌の数が完全母乳栄養児で有意に高いこと、またラクト-N-ビオシダーゼの遺伝子数も有意に高いことを見出しました。次に、X線結晶構造解析 *4)によりこのラクト-N-ビオシダーゼの立体構造を解明することで、そのユニークな構造特性と詳細な反応機構を明らかとしました。ラクト-N-テトラオースというオリゴ糖は、様々な霊長類の乳中でも人乳にのみ特に多く含まれている成分です。また、ビフィズス菌はヒトの乳児に特徴的に多く生息する細菌です。このことから、ヒトはその乳児期に積極的にビフィズス菌と共生するという進化をとげ、それを支えたのが母乳オリゴ糖であることが推察されます。
【今後の展開】
最近、ヨーロッパを中心にして、人工的に合成した母乳オリゴ糖を人工乳に添加しようという動きがあります。本研究は、母乳オリゴ糖のビフィズス因子としての機能を解明した研究であり、科学的エビデンスに基づいた食品添加物や栄養補助食品の開発に弾みをつけるものと言えます。
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